「田園住居地域」は生産緑地(農地)とどう関係しているのか?
2018年から「田園住居地域」という用途地域が新設されました。
基本的には「第2種低層住居専用地域」と同じような扱いです。
でも、新設されたということは違いもあります。
一体どんな違いなんでしょうか?
そして、生産緑地(農地)とはどう関係しているんでしょうか?
農地を売るのに許可が必要になります
田園住居地域が新設されたことによる1番大きな変化。
それは、農地を売るのに「許可」が必要になったことだと思います。
市町村長の許可が必要になりました。
のちほどお話しますが、田園住居地域が新設されたことによる変化のもうひとつの特徴に、生産緑地に建物を建てられるようになったということがあります。
いままでは、生産緑地に建物を建てることはできませんでした。
これは大きな変化です。
でも、もっと大きな変化というのが農地を自由に売ることができなくなったことだと思うんです。
今までは許可不要でした
農地は農地法で守られており、基本的には、売買をおこなうのに農業委員会や都道府県知事や市区町村長の許可が必要になります。
でも、市街化区域の農地だけは例外だったんですね。
市街化区域というのは、商業施設や住宅地として使っていくことを目的とした区域です。
行政だって、市街化区域の農地を宅地化していくために、市街化区域の農地の固定資産税を、宅地並みに引き上げたりしてきました。
農地と宅地の固定資産税って全然違うんです。
100倍違うのは当たり前で、場合によっては1000倍以上違うこともあります。
農地としての固定資産税なら年間1万円のところが、宅地並みだと年間100万円とか1000万円になるということです。
とても農家としてやっていけないですよね。
当然、農地を売ることになります。
その流れをスムーズにするためにも、市街化区域の農地の売買は許可不要ということになったわけです。
それでも農家を続けたいという人のためにできたのが、生産緑地制度です。
30年間農家を続けることを条件に、固定資産税と相続税の優遇を受け続けることができるようになりました。
2022年問題への対応策としての「田園住居地域」
その30年間という条件が終わるのが2022年なんです。
生産緑地としての指定が解除されれば、固定資産税や相続税の額が跳ね上がります。
市街化区域の農地が一斉に売られるのではないかと心配されていたのが生産緑地の「2022年問題」です。
30年前であれば、それでも良かったのかもしれません。
市街化区域の農地をどんどん宅地化していく方向性でしたから。
でも、状況は変わってしまいました。
今の日本は人口がどんどんと減少してきています。
市街化区域であっても、住宅が余ってきているんですね。
空き家が増えてきています。
そんな中、農地が宅地として一斉に売られてしまっては困るわけです。
宅地化されたはいいけれども売れないとか、賃貸住宅を建てたはいいけれども入居者がいないという状況になる可能性が高いです。
直接的に困るのは住宅メーカーとか賃貸オーナーですが、空き家が増えてしまうのは行政も困ります。
それだったら、30年を超えても農家を続けてもらいたいと思っているのが今の行政です。
その結果、「田園住居地域」が新設されました。
田園住居地域に指定されている生産緑地は、2022年に生産緑地としての指定が解除されても、自由に農地を売ることはできなくなってしまいました。
売るには市区町村長の許可が必要になります。
売られる農地の数を、行政側でコントロールできるようになったということですね。
「生産緑地としての指定が解除される30年後にはこの農地を売ろう」と考えていたかもしれない農家の人にとっては厳しい話ではありますが。。
生産緑地に建物(店舗)を建ててもいいことになりました
農地を自由に売れなくなった代わりに、田園住居地域であれば生産緑地に建物を建ててもいいことになりました。
今までは、生産緑地に建物を建てるのはNGでした。
それが、その生産緑地で採れる野菜などを売るための店舗は建ててもいいということになりました。
2階建てまでで500平米以内の建物であれば許可されます。
500平米って結構広いですけどね。
例えば、その生産緑地で採れた野菜を使った料理を提供するレストランを開業してもいいということです。
農家レストランはビジネスとして成り立つ?
生産緑地は一般農地に比べれば土地が狭いですし、生産性はそれほど高くはありません。
実際のところ、生産緑地として農家をやられている方の収入の、3/4ほどは賃貸収入などのようです。
農家としての収入は1/4ということですね。
生産緑地としての指定が解除されると、固定資産税の額が跳ね上がります。
宅地並の課税になるからです。
急激に固定資産税が上がるのは負担がきついので5年間かけて段々と上げていくことになってはいますが、それでもその負担はかなりのものがあります。
そこで、農地としての収入を上げてもらうために建物を建ててもいいということになったのかもしれません。
でも、上手くいくでしょうか?
農家の方が自分でレストランを開業できるとは考えにくいです。
農業のプロではあっても飲食業のプロではないですからね。
建物を建てるのにも建築コストがかかります。
農家レストランを開業できるテナントとして入居者を募集するとしても、そう簡単には集まらないのではないでしょうか。
仮に入居者がいたとしても、飲食店は入れ替わりが激しいです。
経営を安定させるのはかなり難しい気がします。
生産緑地は「特定生産緑地」として10年延長できることになりました
田園住居地域の新設によって、農地を自由に売ることはできなくなりました。
そして、生産緑地は2022年問題を迎えます。
でも、今年2018年、生産緑地は2022年で終了しないことが決まりました。
特定生産緑地として10年延長できることになりました。
農家を続けたいという人にとっては朗報です。
固定資産税と相続税の優遇を受け続けることができます。
また、10年間で終わりというわけではなくて、10年毎に延長をし続けることができます。
代々農家を続けていきたいという人にとっては安心の決定ですね。
まあ、法律はいつ変わるかわかりませんけどね。
でも、今後、日本の人口は減少し続けるので、農地を宅地化していくようなことは考えづらいのではないかと思います。
反対に、市街化区域の農地が増える可能性すらあるかもしれません。
宅地を農地にするのは簡単ですが、田園住居地域の場合には、農地を宅地に戻すのには許可が必要になるので要注意ですけどね。
まとめ
というわけで、田園住居地域と生産緑地(農地)の関係についてお話しました。
複数の要素が絡み合っています。
「生産緑地の2022年問題」
「日本の人口の減少」
「市街化区域の農地は許可不要で売れること」
などです。
行政としては、農地を宅地化していくことはもはや目指していません。
反対に、農地を維持していくことを考えています。
なので、2022年問題で農地が宅地化されることは避けたいんですね。
しかも、2022年問題は一斉に起こる可能性があります。
そこで、宅地化される農地の数をコントロールできるように「田園住居地域」を新設しました。
田園住居地域の農地を売るには市区町村長の許可が必要になります。
農地を自由に売れなくなった代わりに、農地に建物を建ててもいいことになりました。
その農地で採れた野菜を使うことが条件ですが、直売所やレストランを開業することができます。
それが農家の収入アップにつながるかどうかはちょっと疑問ですけどね。
ちなみに、2022年問題についての対応策は「田園住居地域」の新設だけではありません。
2022年で期限が切れるはずだった生産緑地の指定を「特定生産緑地」として10年間延長できることになりました。
多くの生産緑地の農家は特定生産緑地として延長を選ぶ可能性が高いです。
仮に思っていた以上の農家が農地を売却する選択したとしても、田園住居地域の場合には、市区町村長の許可が必要です。
宅地化される農地の数をコントロールすることができます。
関連記事:生産緑地2022年問題、「延長」するべきか「売却」するべきか?
投稿者プロフィール
- 一級建築士受験資格保有。建築家が設計した住宅、築40年以上のヴィンテージマンション、ハウスメーカーの住宅などなど、住宅全般をこよなく愛しています。特に狭小住宅好き。
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