「特定生産緑地」に指定されなかった場合にはどうなるのか?
2019年から「特定生産緑地」に指定してもらうための申込み手続きが開始します。
特定生産緑地に指定してもらえば、基本的には今の生産緑地としての状態が10年間延長されます。
でも、特定生産緑地として指定されなかった場合にはどうなるでしょうか?
イメージしやすいように分かりやすくお話します。
農業を続けるのは困難になります
簡単に言えば、農家として農業を営んでいくのはとても困難になります。
特定生産緑地として指定されなかったとしても、農家を続けることはできます。
30年間の営農の義務が終わっただけです。
農家を辞める自由と、農地を自由にする自由を得ることになりますが、農家を続けることはできます。
ただ、それはとても困難なものになります。
少しでも農家を続けたいという気持ちがあるのであれば、特定生産緑地として指定を受けるほうがいいです。
農家としての売上では「激増」する固定資産税を支払えないかも
特定生産緑地としての指定を受けない場合には、それまで生産緑地として受けていた優遇がなくなります。
固定資産税は農地並みから宅地並みになります。
相続税の納税猶予はなくなります。
特定生産緑地として指定を受けなくても、農家を続けている限りは、すでに受けている相続税の納税猶予は有効です。
特定市街化区域(人口50万人以上の市区)に農地がある場合には、死ぬまで農家を続けることで、相続税の支払いをゼロにすることができます。
特定市以外の市街化区域の場合には、死ぬまでではなくて20年間の営農で済みますけどね。
ところが、特定生産緑地としての指定を受けなければ、農家を続けるということがとても困難になります。
固定資産税が大きな問題になるんです。
農地の固定資産税というのは、宅地に比べてかなり優遇されています。
それが、東京都内などの地価の高い場所になると、「かなり」というレベルではなくて「ビックリするぐらい」というレベルに変わります。
東京都内の生産緑地はビックリするぐらい固定資産税が優遇されているんです。
その差は場合によっては1000倍以上になります。
東京都の農地は一律平米あたり220円として評価されます。
世田谷区などの宅地の場合には、平米あたり40〜50万円の評価は当たり前です。
その差は1000倍どころか2000倍近くもあります。
農地として実際に耕作している場合には、固定資産税の評価額を1/3にすることができるのですが、それでも300〜600倍の違いがあるということです。
仮に、今の固定資産税が1万円だとしたら、特定生産緑地に指定されなかった場合には300〜600万円になるということですね。
農家としての売上では固定資産税すら支払えないかもしれません。
そして、農家を辞める場合には、猶予してもらっていた相続税を利子税もつけて支払わなければいけません。
選択肢は「売却」か「賃貸経営」の2つです
特定生産緑地に指定されなかった場合には、農家を続けることは困難です。
そうなると選択肢は2つです。
「農地を売却するか?」
「農地に賃貸アパートを建てて賃貸経営をするか?」
です。
その他にも色々とあるかもしれませんが、最低でも固定資産税を支払えるだけの収益を上げる必要はあります。
賃貸経営を勧められても鵜呑みにはしないこと
生産緑地の農家の方は、賃貸経営を勧められる可能性が高いのではないかと思います。
というのも、生産緑地の農家の方は、他にも土地をもっていて賃貸経営していることが多いからです。
実際のところ、農家としての収入よりも賃貸収入の方が多いという人もかなり多いようです。
となると、「もし、特定生産緑地として指定を受けないのであれば、その土地に賃貸アパートを建てませんか?」という営業があっても不思議ではありません。
いや、実際のところ、そういった営業活動がかなりおこなわれているようです。
賃貸アパートを建てれば、固定資産税を支払っても十分な利益がでるという試算を提案されることもあるかもしれません。
でも、それを鵜呑みにするのはちょっと危険がともないます。
行政はこれ以上宅地を増やしたくない
「なぜ、行政は生産緑地を延長することにしたのか?」ということをしっかりと考える必要があります。
生産緑地というのは、ある意味30年間の猶予期間としての意味合いが強いものでした。
市街化区域の農地は基本的には宅地として使っていくという方法性を当時の行政は持っていました。
だからこそ、市街化区域の農地は宅地並みの固定資産税に引き上げられましたしね。
でも、昔からそこで農家をやっていて、宅地並みの固定資産税を課せられたら困るという人のために、30年という期限を決めて生産緑地としての指定をおこないました。
それを延長することにしたというのには理由があります。
日本の人口の減少です。
市街化区域であっても宅地が余るようになってきたんです。
空き家問題もだんだんと表面化してきています。
簡単に言えば、行政はこれ以上宅地を増やしたくないんですね。
生産緑地法の改正で「特定生産緑地」が登場したのと同時に、建築基準法の改正によって「田園住居地域」というものも登場しました。
田園住居地域にある農地は市街化区域内であっても売却するのに市町村長の許可が必要になります。
それまでは、市街化区域の農地であれば許可不要だったのにです。
つまりは、2022年以降に生産緑地を宅地として売却したいと思っても、市町村長の許可が必要になるということです。
生産緑地を買う側としては不確定要素が増えるために、手が出しづらくなります。
また、土地を購入して宅地開発などをおこなう住宅メーカーも、家を建てたはいいけれども売れないということは避けたいはずです。
すでに、購入する土地の立地を厳選しはじめています。
賃貸経営をする場合にも、こういった背景を知っておいたほうがいいと思います。
賃貸アパートを建てたはいいけれども入居者がいないということにもなりかねません。
駅近など立地の良い生産緑地の場合には高く売れる可能性もありますけどね。
まとめ
というわけで、「特定生産緑地」として指定されなかった場合にはどうなるのかというお話をしました。
農家を続けることはかなり困難になります。
まず、固定資産税を支払うことが難しくなります。
これは、地価が高い地域では特に顕著になります。
農家としての収入がすべて固定資産税の支払いで消えるどころか、足りない可能性も十分にあります。
そうなると、選択肢は2つです。
「農地を売るか」
「農地に賃貸アパートなどを建てて賃貸経営をするか」
です。
どちらにしても、「なぜ、行政は生産緑地を延長することにしたのか?」ということを考える必要があります。
日本はすでに人口が減少してきています。
宅地は増やしていくものではなくて、段々と縮小させていくものになりつつあります。
なので、行政としても生産緑地を宅地にしたくはないし、宅地開発などをおこなうマンションデベロッパーや住宅メーカーなども立地選びに慎重になってきています。
立地次第では生産緑地の売却も難航するかもしれません。
関連記事:生産緑地2022年問題、「延長」するべきか「売却」するべきか?
関連記事:「田園住居地域」は生産緑地(農地)とどう関係しているのか?
投稿者プロフィール
- 一級建築士受験資格保有。建築家が設計した住宅、築40年以上のヴィンテージマンション、ハウスメーカーの住宅などなど、住宅全般をこよなく愛しています。特に狭小住宅好き。
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