1992年に改正された生産緑地法。
生産緑地として固定資産税などの優遇を受けるには、30年間の営農の義務が課せられました。
2022年にはその30年の期限を迎えます。
現状では「10年延長する」「売却する」という2つの選択肢があります。
どちらを選ぶのがいいんでしょうか?
「特定生産緑地」として10年間延長できるようになりました
ちょっと前までは選択肢は1つだけと考えられていました。
「売却する」の一択です。
というのも、生産緑地が「特定生産緑地」として10年間ずつ延長できることが決まったのはつい最近だからです。
今年2018年です。
それまでは、「2022年以降は、固定資産税や相続税の優遇は受けられなくなるんじゃないか?」と思われていました。
都心部の農地で宅地並みの課税をされると、実際問題、農家として経営を成り立たせるのは困難になります。
ほとんどの生産緑地の農家は固定資産税だけで赤字になってしまいます。
それまで年間1万円もしなかった固定資産税が急に数百万円になってしまいかねませんから。
そうなると、農地を売却するしかありません。
そして、一斉に生産緑地が売りにだされるんじゃないかと心配されていたのが2022年問題です。
でも、特定生産緑地として延長できることが分かった今、2022年問題は存在しなくなってしまいました。
農家を続けたいなら「延長」の一択です
結論から言えば、農家を続けたいなら「延長」の一択だと思います。
1992年に生産緑地としての指定を受けて、30年間の営農の義務を負ったということは、本気で農家をするということの現れでもあると思います。
延長できるのであれば、延長するのがベストだと思います。
実際のところ、8割以上の生産緑地の農家の方は延長するのではないかと思います。
なによりも、やはり生産緑地のメリットは大きいです。
まずは、固定資産税。
都心に近いという立地にも関わらず、市街化調整区域の一般農地と同じような固定資産税で済みます。
実際のところは、農地としては高いほうですが、宅地としての固定資産税に比べると100倍とか200倍とかそれ以上も違います。
例えば、東京都世田谷区の場合、土地の評価額は平米あたり50万円ということもザラです。
それが、生産緑地だと平米あたり220円の評価額になります。
その差は2000倍以上です。
同じような立地であってもこういうことが起こります。
仮に、生産緑地として延長出来ない場合には、固定資産税が2000倍に跳ね上がるということです。
延長したほうがいいですよね。
そして、相続税。
相続税もかなり安くなります。
もし、あなたが親から生産緑地を相続しているのであれば、相続税の納税猶予を利用しているはずです。
猶予という名前がついているので、いつかは払わなければいけないと感じますが、農家を続けるかぎり支払う必要がありません。
猶予というよりも免税に近いですね。
もし、2022年に生産緑地を解除することになると、猶予してもらっていた相続税に利子税も加えて支払わなければいけません。
立地によっては億を超える可能性もあります。
特定生産緑地として延長すれば、それが免税になる可能性が高くなります。
2022年問題よりも問題になってくるのは「後継者」問題?
自分では農家を続けたいと思っていても、それがなかなか難しい場合があります。
後継者問題ですね。
2022年問題が存在しなくなったいま、生産緑地で1番の問題というのは後継者問題だと思います。
「俺は農家を続けたいんだけれども、子どもが農家をやりたくないって言うんだよ」という問題ですね。
子どもはサラリーマンをやっていて、ごくたまに農作業を手伝ってくれるだけという場合も多いと思います。
もっと言えば、「生産緑地を相続することになったら売るからね」と明言してくる子どもも多いかもしれません。
農業をする気もないのに農地を持っていても仕方がないですもんね。
売れるのであれば売ってしまいたくなるでしょう。
ましてや、生産緑地は宅地としても魅力的な立地な場合が多いです。
高く売れる可能性も大いにあります。
そんな、後継者不在の状態で特定生産緑地として延長するのは不安に感じる人もいるかもしれません。
高齢の場合には、いつ病気になるか、体が動かなくなるかも心配ですしね。
特定生産緑地として延長しても、もし、自分で農業が続けられなくなってしまえば、猶予してもらっていた相続税を支払う必要がでてきます。
特定市(人口50万人以上が住んでいる市区)の生産緑地の場合、相続税を猶予してもらえるのは死ぬまで農業を続けた場合のみです。
特定市でなければ20年以上農業を続ければ免税になるんですけどね。
そんなわけで、後継者がいない場合には、延長する場合でも不安要素はつきまといます。
10年後よりも今のほうが農地は高く売れる?
特定生産緑地として延長したとしても、結局は売ることになるのであれば、今のうちに売っておいたほうが良い可能性もあります。
というのも、日本ではすでに人口が減り始めています。
高度成長期には人口もどんどんと増えていたため、住宅地もどんどんと増えていきました。
郊外に住宅地が広がっていったのもそれが理由ですね。
でも、今後は人口は減少します。
いままであった宅地に空き家が増えていくということです。
家が欲しいという人に対して、家の量が多い状態になるんですね。
そうなると当然のことながら住宅の価格は下がっていきます。
もちろん、土地の値段も下がります。
そんなわけで、10年後は今よりも土地の値段が下がっている可能性が高いんです。
劇的に下がるということはあまり考えられませんが、人口の減少率と同じぐらいのスピードで値下がりしていくのではないかと思います。
もちろん、立地条件によりますけれどね。
多くの人が欲しがる土地であれば、10年後でももしかしたら値上がりしているかもしれません。
そんなわけで、もし、農業を続ける未来に不安があるのであれば、生産緑地を売却することを検討してみてもいいかもしれません。
賃貸アパートなどの「土地活用」の提案には要注意です
ちなみに、生産緑地を狙って、賃貸アパートの経営を勧める不動産会社があったりします。
「生産緑地を解除して、賃貸収入を得るための賃貸アパートを建てませんか?」という感じです。
確かに、生産緑地というのは土地の広さ的にも賃貸アパートを建てるのに適していることが多いです。
でも、さきほども言いましたが、今後の日本は人口が減少していきます。
空き家がどんどんと増えていくことが予想されます。
そんな中で賃貸経営をすることになります。
結構ハードルが高いと思いませんか?
部屋を借りる側は、家賃が安くて、立地のいい部屋を選びます。
もし、あなたの賃貸アパートよりも家賃が安くて立地のいい賃貸物件があった場合、そちらから部屋が埋まっていくということです。
下手をしたらあなたの賃貸アパートはずっと空室のままという可能性だってあります。
もし、賃貸経営を検討する場合には、これから日本の人口は減っていくんだということを十分に理解しておくことをオススメします。
生産緑地が駅徒歩1分とか魅力的な立地なのであれば考えてみてもいいかもしれませんけどね。
まとめ
というわけで、生産緑地の2022年問題についてお話しました。
生産緑地は「特定生産緑地」として2022年以降も延長できるようになりました。
なので、実際のところは今は2022年問題というのは存在しません。
あるのは、「延長」して農家を続けるか、それとも農家を辞めて農地を「売却」するか、という2つの選択肢です。
「土地活用」という第3の選択肢もありますが、容易におこなうのは危険なのではないかなと思います。
農家を続けたいと思っているのであれば延長するのがいいと思います。
固定資産税と相続税の優遇も受けることができます。
ただ、問題になってくるのは2022年問題よりも後継者です。
後継者がいない場合には、農家を続けたくても売却したほうがいい可能性というのもあります。
延長して農家を続けたとしても、いつかは生産緑地を売らなければならない場合、今、売ったほうが高く売れる可能性が高いです。
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投稿者プロフィール
- 一級建築士受験資格保有。建築家が設計した住宅、築40年以上のヴィンテージマンション、ハウスメーカーの住宅などなど、住宅全般をこよなく愛しています。特に狭小住宅好き。
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