家を売るために必要な書類の中に「検査済証」が含まれていることがあります。
検査済証というのは、家がちゃんと図面通りに建てられていますよということを証明する書類です。
家が完成したときに受けるべき検査なのですが、検査をおこなっていない家も結構多いんです。
検査をおこなっていなくて検査済証がない場合には家を売ることは難しいんでしょうか?
売却することは「可能」です
結論から言うと、売却することは十分に可能です。
検査済証がない家って実のところ結構あります。
特に2005年以前は検査済証を取得しない方が普通でした。
取得率は50%以下です。
2005年以前の家の半分以上には検査済証がないということですね。
でも、2005年以前に建てられた家だからって売れないということはありません。
検査済証がなくても家を売ることは可能です。
検査済証がないことの「デメリット」は?
検査済証がなくても家を売ることはできるのですが、多少のデメリットはもちろんあります。
検査済証があるにこしたことはありません。
ちゃんと図面通りに建てられたという証拠となる書類ですからね。
図面通りに建てられているということは、きちんと建築基準法に則って建てられている家ということです。
家を建てるには、まず、建築確認申請というものをおこなわなければいけません。
「こんな感じの家を建てたいんですけどいいですか?」という申請です。
建築図面を提出します。
その図面を役所側(建築主事or指定確認検査機関)でチェックします。
建築基準法に違反していないかのチェックですね。
その結果OKであれば、確認済証という書類が発行されて、家を建てはじめることができます。
「違法建築ではない」ということを証明できません
検査済証がないことのデメリットのひとつ。
それは、違法建築ではないということを証明することができないという点です。
検査済証がないということは、家が完成したときに図面通りに建てられているのかの検査してもらっていないということです。
もしかしたら、図面通りに建てられていないかもしれないんですね。
実際のところ、意図的に図面とは違う風に建てられているという家も結構あるんです。
家は土地によって建てられる床面積が決まっています。
建ぺい率や容積率によってですね。
「もう1部屋欲しいんだけれども、それだと容積率がオーバーしてしまう」という場合、意図的に図面を変える場合があります。
例えば、ロフトの部分の天井高を高くして1部屋として使えるようにしたりですね。
ロフトの部分は天井高が1.4m以下であれば延床面積に含まれません。
建築基準法上はです。
なので、容積率がギリギリの状態でも、ロフトを付け加えるということは可能になります。
それで建築確認申請をおこなうと、もちろん建築基準法に則っているので申請は通ります。
確認済証が発行されます。
で、実際に家を建てるときに、ロフトの部分の天井高を高くするんですね。
すると、ロフトを1部屋として使えることになります。
でも、建築基準法上は容積率オーバーになります。
つまりは、違法建築になってしまうということです。
買う側が「住宅ローンを組めない」可能性があります
2005年以前は検査済証が発行されないことが多かったとお話していますが、なぜ、2005年なんでしょうか?
それは、2005年にマンションの耐震偽装問題が起きたからです。
確認申請が通った後に、意図的に構造部分の設計を変更した事件ですね。
大規模マンションの場合には構造材を減らすことができればかなりのコストカットができますからね。
その問題が表面化してニュースでもかなり取り上げられました。
その結果、家を買う側の意識が変わったんです。
「この家は違法建築ではないのか?」という問題意識が芽生えはじめました。
そこから検査済証を取得する家が増えていったんですね。
検査済証があれば違法建築ではないという証明ができますから。
この問題は、住宅ローンにも大きな影響を与えています。
お金を融資する金融機関側も、検査済証が発行されているかどうかを気にするようになったんですね。
「もしかしたら違法建築かもしれない住宅に融資することはできない」ということです。
金融機関はお金を融資すると同時に、その家の抵当権者になります。
違法建築かもしれない家に抵当権をつけるのは嫌なんですね。
なので、検査済証がない場合、あなたの家を買いたいと言う人がいても、買主が金融機関に融資を断らられる可能性というのがあります。
「リノベーション目的」で買おうとしている人に売るのは難しいです
これは戸建ての場合に限るのですが、リノベーション目的で家を買おうとしている人に、検査済証がない家を売るのは難しいです。
問題が起こる可能性が高いです。
リノベーションというのは、今ある家をガラッとイメージチェンジすることです。
家を新築時に戻そうとするリフォームとはまたちょっと違います。
床面積が増える可能性もあるし、構造にも手を入れるかもしれません。
実は、床面積が増えるという場合や、主要構造材の半分以上に手を入れる場合には、リノベーションであっても建築確認申請をしなければいけません。
その時に、検査済証の提出が求められるんですね。
検査済証がない場合、「リノベーション目的で買ったのにリノベーションできないじゃん!」ということが起こりえます。
まあ、のちほどお話しますが解決策はあります。
でも、ちょっと面倒なことになるのには変わりありません。
ちなみに、マンションの場合には大丈夫なんです。
マンションの場合は部屋の中に構造材ってないですよね?
仕切り壁はありますが、お隣の部屋との間にあるような鉄筋鉄骨の構造材は部屋の中にはありません。
なので、仮に部屋の中のすべての壁と床と天井を取り壊してリノベーションをしたとしても、延床面積は増えないし、構造材にも手を入れない(入れられない)ので建築確認申請する必要がありません。
ただし、マンションの管理組合に許可をもらうぐらいは必要になりますが。
検査済証は「発行されている」んだけれども失くしてしまったという場合
ちなみに、検査済証がないといっても、発行されているんだけれども失くしてしまっただけという場合もあると思います。
そういった場合には解決策があります。
検査済証は再発行されない書類なので、新たに検査済証を取得するということはできません。
でも、過去に検査済証が発行されたことがあるという事実があるのなら、検査済証の代わりとして使える書類があります。
「台帳記載事項証明書」が検査済証の代わりになります
役所には確認済証や検査済証が発行された記録というものが台帳に残っています。
証書そのものが残っているわけではないんですが、発行された記録が残っているんです。
そして、発行された記録を証明する書類というものがあります。
「台帳記載事項証明書」です。
検査済証が発行されたということは、家は図面通りに建てられていたということです。
なので、検査済証が発行されたという記録である台帳記載事項証明証だけでも検査済証の代わりとして使えるんですね。
今からでも検査済証を発行してもらうことはできないのか?
検査済証がないといくつかのデメリットがあるということが分かると、次に気になるのは「今からでも検査済証って発行してもらうことはできるのか?」ということなんじゃないでしょうか。
築年数が経っていても、構造や間取りが変わるほどの劣化がない限り、当時、図面通りに建てられていたかどうかというのは検査できるはずです。
2014年から検査済証がない場合でも検査を受けることができるようになりました
実は、2014年から国土交通省によって、築年数が経ってからでも検査が受けられるようにガイドラインが制定されました。
正式名称は「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」です。
長いですね。。
このガイドラインに則って検査することを「ガイドライン調査」と呼んだりします。
指定確認検査機関などにお願いすれば築年数が経ってからでも図面通りに建てられていたかどうかの検査を受けることができます。
必要な書類は建築確認図書(建築確認申請で提出した書類一式)だけです。
当時の図面があれば検査することができますからね。
その結果、図面通りに建てられていたことが証明されれば、検査済証があるものとしてみなされます。
検査済証がなくても、ガイドライン調査に合格していれば、戸建てのリノベーションもおこなうことができるようになるということです。
ガイドラインが制定される2014年以前はこういうことはできませんでした。
検査済証がなければ取り壊して新築するしかなかったんですね。
でも、最近は日本でもフロー型(建てては取り壊し)からストック型(すでに建っているものを活用)に移行してきています。
その流れを促進するためにもこういったガイドラインが制定されたんですね。
家を売るためにわざわざガイドライン調査を受ける必要はないと思いますが、買主側から検査済証がないことを指摘されたときに説明できるようにしておくといいかもしれません。
外部リンク:検査済証がない場合のガイドライン|国土交通省
まとめ
というわけで、検査済証がなくても家を売却することはできるのかどうかというお話をしました。
検査済証がなくても家を売ることは可能です。
ただ、3つのデメリットがあります。
1つめは、違法建築ではないということを証明できないこと。
2つめは、買主側が住宅ローンを組めない可能性があるということ。
3つめは、リノベーション目的で戸建てを買おうとしている人に売るのは難しいこと。
です。
ちなみに、検査済証は発行されたんだけど紛失してしまったという場合は問題ありません。
役所で「台帳記載事項証明書」を取得すれば検査済証の代わりとして使うことができます。
また、2014年からは国土交通省によって制定されたガイドラインによって、築年数が経ってからでも検査をおこなうことができるようになりました。
買主に検査済証がないことを指摘されたときのためにも、ガイドラインの存在は知っておいたほうがいいかもしれません。
関連記事:「確認済証」と「検査済証」はどう違うんでしょうか?
投稿者プロフィール
- 一級建築士受験資格保有。建築家が設計した住宅、築40年以上のヴィンテージマンション、ハウスメーカーの住宅などなど、住宅全般をこよなく愛しています。特に狭小住宅好き。
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